20110420句(前日までの二句を含む)

April 2042011

 万緑も人の情も身に染みて

                           江國 滋

道癌の告知を受け、闘病生活をおくった滋が遺した句集『癌め』はよく知られている。掲句は全部で五四五句収められたうちの一句。この一冊には、おのれの癌と向き合うさまざまに屈折した句が収められている。「死神にあかんべえして四月馬鹿」「おい癌め酌みかはさうぜ秋の酒」などの諧謔的な句にくらべると、掲句は神妙なひびきをたたえている。そこにじつは滋の資質の一端をのぞき見ることができるように思われる。中七以下には、俳句としての特筆すべき要素はないと言っていいけれど、「万緑」とのとり合わせや、その「身」のことを思えば、おのずと深い味わいがにじみ出てくる。詞書に「払暁目が覚め、眠れぬまま、退院後の快気祝ひに添へる句をぼんやり考へる」とあり、「4月19日」の日付がある。当人は「快気祝ひ」を「考へ」(ようとし)ていたということ、また果敢に秋の酒を「酌みかはさう」とも考えていたということ。そのようにおのれを鼓舞するがごとく詠んだ作者の心には、ずっしりと重たい覚悟のようなものがあったと思われる。滋(俳号:酔滋郎)は「おい癌め…」を詠んだ二日後の8月10日についに力尽きた。万緑の句と言えば、草田男の他に上田五千石の「万緑や死は一弾を以て足る」もよく知られている秀句である。『癌め』(1997)所収。(八木忠栄)




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