April 13 2011
うばぐるま突きはなしたる花吹雪
安東次男
安東次男はいつも背筋をピンと伸ばして、凛乎とした詩人だった。彼の作品や言動もまたそのような精神に貫かれていた。掲句は、そうした詩精神によって生まれた一句だと言える。「うばぐるま」と「花吹雪」という二物の狭間に打ち込まれた「突きはなしたる」という勁い表現によって、いやが上にも緊張感は増したと言える。赤児が乗せられているうばぐるまは、通常は母親が押しているはずだが、何かの事情で母親がそれを突きはなしてしまったのか、母親がしっかり押しているうばぐるまを、すさまじい花吹雪が突きはなしてしまったのか。――実景であるにせよ、心的現象であるにせよ、ハッとさせる勢いがある。上五、中七、下五、それぞれが押し合うようにして、張りつめた緊張感をくっきり放っている一句である。何ごとかを思いつめた若い母親像が、厳しく立ち上がってくるようである。今さら引用するまでもないだろう、橋本多佳子の「乳母車」の句もそうだが、「乳母車」というものは、俳句に不思議なパワーをもたらすように思われる。映画「戦艦ポチョムキン」のオデッサの階段で、下降する乳母車の有名なシーンを思い出す。既刊の『安東次男全詩全句集』に未収録の俳句と詩を中心に、中村稔が編纂した『流火草堂遺珠』(2009)に収められた。他に「ふるさとの氷柱太しやまたいつ見む」も。(八木忠栄)
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