March 15 2011
鳥雲に入る手の中の海の石
廣瀬悦哉
秋に渡ってきた鳥たちも、間もなく帰り仕度を始める頃だろう。梨木香歩の『渡りの足跡』は、住み慣れた場所を離れる決意をするときのエネルギーはどこから湧いてくるのか、という問いに渡り鳥の後を追いながら考えていく。観察記録とともに、動物として生きていくなかの「渡り」や「旅」の本質を探っていく繊細なエッセイに感銘したばかりなので、今年の鳥たちの様子は例年以上に気にかかる。それにしても、鳥が帰る時期を知るのは、なにかに誘導されるのだろうか。たとえば風が、たとえば雲が、鳥たちだけに分かる言葉で、そろそろ帰っておいで、とささやいているのかもしれない。掲句では、大陸へと引きあげる鳥の姿を思い描きつつ、ふと手に握った石を意識する。海の石。それは、人類になる前のずっとずっと昔の故郷の石である。ひんやりと冷たい小さな石が、一途に海へと針を向ける望郷のコンパスのように感じられる。〈啓蟄や黒猫艶やかに濡れて〉〈空つぽの鳥籠十六夜のひかり〉『夏の峰』(2011)所収。(土肥あき子)
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