January 17 2011
老人のさすられどほし日向ぼこ
大木あまり
ちょっと見には、まことに微笑ましい光景だ。昨年は父母のこともあり、介護施設などに行く機会が多かった。秋口くらいから、職員が自力では歩けない年寄りを車椅子に乗せて日向ぼこをさせる図をよく見かけたものだ。サービスの一貫なのだろう。そんなときに実際に老人の背中などをさする場合もあるけれど、職員の多くは物理的にさするというよりも、「言葉でさする」場合が圧倒的に多い。「今日はあったかくて気持ちが良いねえ」などと、職員は元気づけようとして、とにかく慰めや励ましの言葉を連発するのである。掲句の光景も、そんな日向ぼこを詠んでいるのだと思う。しばらく見ていると、たいていの老人は黙りこくったままだ。「うん」でもなければ「ああ」でもなく、無表情である。が、そんなことはおかまい無しに職員は話しかけつづける。見ていて、私はだんだん腹立たしくなってきた。一方的な言葉の「さすり」は、これはもう暴力の行使なのであって、彼ないしは彼女はちっとも喜んではいないじゃないか。「お前の口にチャックをかけろ」と叫びたくなってくる。「さすられどほし」はかえって不愉快なことが、何故わからないのか。根本的にマニュアルが間違っているのだ。さりげないが、掲句はそんな状況を告発しているのだと読んだ。俳誌「星の木」(第6号・2010年12月25日)所載。(清水哲男)
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