20101027=20101027句

October 27102010

 寺の前で逢はうよ柿をふところに

                           佐藤惣之助

この寺の前で、何の用があって、いったい誰と「逢はう」というのか――。「逢はうよ」というのだから、相手は単なる遊び仲間とか子どもでないことは明解。田舎の若い男女のしのび逢いであろう(「デート」などというつまらない言葉はまだ発明されていなかった)。しかも柿という身近なものを、お宝のように大事にふところにしのばせて逢おうというのだ。その純朴さがなんともほほえましい。同時にそんなよき時代があったということでもある。これから、あまり人目のつかない寺の境内のどこかに二人は腰を下ろして、さて、柿をかじりながら淡い恋でも語り合おうというのだろうか。しゃれた喫茶店の片隅で、コーヒーかジュースでも飲みながら……という設定とはだいぶ時代がちがう。大正か昭和の10年代くらいの光景であろう。ふところは匕首のようなけしからんものも、柿やお菓子のような穏やかなものもひそむ、ぬくもった不思議な闇だった。掲句の場合の柿は小道具であり、その品種まで問うのは野暮。甘い柿ということだけでいい。柿の品種は現在、甘柿渋柿で1000種以上あるという。惣之助は佐藤紅緑の門下で、酔花と号したことがあり、俳誌「とくさ」に所属した。句集に『螢蠅盧句集』と『春羽織』があり、二人句集、三人句集などもある。他に「きりぎりす青き舌打ちしたりけり」がある。『文人俳句歳時記』(1969)所収。(八木忠栄)




『旅』や『風』などのキーワードからも検索できます