October 25 2010
柳散る銀座もここら灯を細く
山田弘子
三十代はじめのころ、友人と制作会社を設立して銀座に事務所を構えた。いまアップル・ストアのあるメイン・ストリートのちょうど裏側あたりのおんぼろビルの三階だった。素人商売の哀しさ、この会社は仕事の幅を広げすぎ狡猾な奴らに食い物にされたあげく、たちまち倒産してしまった。手形を落とすためのわずかな金を毎日のように工面し、私が雑誌などに書いた文章のささやかな原稿料までをつぎこんだのだが、貧すれば鈍するでうまく行かなかった。だから、銀座には良い思い出はあまりない。だから、こういう句には弱い。しんみりとしてしまう。いまでもそうだが、銀座で灯がきらきらしているのは表通りだけで、一本裏道に入ると灯はぐんと細くなる。そんな街に名物の柳がほろりほろりと散るさまは、まるで歌謡曲の情緒にも似て物悲しいものだ。私が通っていたころは、毎晩おでんの屋台も出てたっけ。客は主にキャバレーの女の子たち。顔見知りになって「そのうち店に行くからね」と言うのは口だけで、事務所の隣にあった大衆的な「白いバラ」にも行ったことはなかった。いや、行けなかった。『彩・円虹例句集』(2008)所載。(清水哲男)
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