October 19 2010
アクセル全開秋愁を振り切りぬ
能村研三
いつもはごく温厚な人がハンドルを握ると、とたんに性格が変貌し大胆になるというタイプがあるらしい。常にないスピード感やひとりだけの空間が心を解放させるのだろう。掲句が荒っぽい運転とは限らないが、どこかいつもとは違う攻めの姿勢を感じさせる。秋の心と書く「愁」が嘆きや悲しみを意味させるのに対し、春の心と書く「惷」には乱れや愚かという意味となる。それぞれの季節に芽生える鬱々とした気分ではあるが、春は軽はずみなあやまちを招くような心を感じさせ、一方、秋の気鬱は全身に覆いかぶさるような憂いを思わせる。常にない向こう見ずなことをしなければ、到底振り切ることなどできない秋愁である。猛スピードで振り切った秋愁のかたまりをバックミラーの片隅に確認したのちは、わずかにスピードをゆるめ軽快な音楽に包まれている作者の姿が浮かぶのだった。〈男には肩の稜線雪来るか〉〈里に降りる熊を促へし稲びかり〉『肩の稜線』(2010)所収。(土肥あき子)
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