September 16 2010
新しく忘れるために秋の椅子
窪田せつこ
だいぶ前の新聞で「知らない事と忘れたという事は違う。忘れることなんか気にしないでただ覚えればいい。そもそも生まれた時からのことをみんな覚えていたら頭がどうかなってしまう」といった言葉が目にとまった。内田百ケン(ケンの表記は門構えに月)だったと思う。もっともこれは学問に関する教えで、砂時計の砂がこぼれおちるように読んだそばから内容を忘れ、薬缶を火にかけていることを忘れ、とりかかろうとしていた用事を忘れてしまう私などとはちょっと事情が違うかもしれない。掲句では「忘れる」不安を一歩進めて、「新しく忘れるために」と言い切ったところがいい。覚えたこともいずれちりちりになってしまうのだから、そんなことは気にせずに椅子に座っておしゃべりをし、本でも読みましょうよ。と、さっぱりした心持ちが秋の爽やかさに通じる。ようやく気温も落ち着いてきて本格的な秋がやってくる。さて新しく忘れるためにお気に入りの椅子に腰かけ図書館で借りてきた本でも広げてみようか。『風』(2009)所収。(三宅やよい)
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