August 30 2010
動物園の汽車ではじまる流離の秋
境田静代
幼い子供といっしょに、動物園の汽車に乗ったのだろう。まだ秋とは名ばかりの暑い日盛りのなかだ。乗っている子供たちはみな無邪気な歓声をあげたりしていて、騒々しくもほほ笑ましい。ガタゴトと揺られている作者の目には、それでも園内に注ぐ日差しに、どことなく真夏のころとは違った趣が感じられ、本格的な秋も遠くはないことを告げられているように写ってくる。やがて、徐々に寂しい季節がやってくるのだ。これを作者は「流離の秋」と表現することにより、季節と人生双方の比喩としたのである。こんなにも楽しい時期はやがて過ぎ去ってしまい、さすらいにも似た困難で長い時間が私たちのところにも訪れてくるのだろう。類想句は探せばありそうだが、動物園の汽車から季節のうつろいを想い人生の行く手を想ったところに、作者のセンスの良さが光っている。さらば、夏の光りよ。そんな感じのほど良いセンチメンタリズムが心地よい。『現代俳句歳時記・秋』(2004・学習研究社)所載。(清水哲男)
『旅』や『風』などのキーワードからも検索できます
|