August 13 2010
懸巣飛び老いし伊昔紅踊るなり
水原秋桜子
伊昔紅(いせきこう)は「馬酔木」の俳人で「雁坂」主宰。兜太の父。京都府立医専出の医師で独協中学では秋桜子と同級。地元秩父で廃れかけていた秩父音頭を埼玉を代表する民謡として再生復活させたのも伊昔紅の功績である。この俳人のエッセー『雁坂随想』が長男兜太や二男千侍(せんじ)らの手によって刊行されているが、これがものすごい代物。あまりの破天荒に抱腹絶倒というより唖然として空いた口がふさがらない。例えば「芳草記」と題した文章は、野糞について自分の体験談が延々と語られる。「有名な《夏草やつはものどもが夢のあと》の夏草の代りに《夏クソ》を置き換へてみても結構筋が通る。》」この調子である。他にエロ話も随所に出てくる。それらきわどい話が混然として、全体としては秩父の風土と人間に対する愛情に満ちた一巻となっている。まさに兜太の原型を見る思い。この句、秋桜子の同級生をみつめる眼が温かい。秩父山中を飛ぶ鳥や秩父音頭も何気なく盛られている。こういうのを本物の挨拶句というのだろう。『雁坂随想』(1994)所収。(今井 聖)
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