July 17 2010
めつむれば炎の見ゆる滝浄土
角川春樹
木の向こうに見える炎のようなものを描きたい、とは徳岡神泉画伯の言葉だったか。その炎は明るく燃えているというよりむしろ仄暗くゆらめいて、目を閉じればなお強く迫ってくるのだろう。句の前後から察して、この滝は那智の滝。〈夜も蒼き天をつらぬく瀑布あり〉〈はればれと滝は暮れゆく音を持つ〉〈銀漢のまつしぐらなり補陀落寺〉など、一度はこの目で那智の滝を観たい、とあらためて強く思った。ことに、夜の滝。その音と匂いに包まれているうち、滝の水が天から落ちているのか、天に向かって駆け上っているのか、自分がどこにいるのか、どこへ行くのか・・・確かなものは何ひとつ無くなっていく気がする。信ずるものにとって観音浄土は、現世よりよほど確かなものなのだろう。『夢殿』(1988)所収。(今井肖子)
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