June 03 2010
階段のひとつが故郷ハーモニカ
長岡裕一郎
学校の階段、二階へあがる家の階段、錆びた手すりのついた公園の階段。記憶の中にしまいこんでいたそれぞれの階段が胸のうちによみがえってくる。掲句には屋内に閉ざされた階段より子供の遊び場にもなる公園の階段が似つかわしい。無季の句には永遠に持続する時間と風景が隠されている。この句の場合、学校にも家にも置きどころのない心と身体を階段に寄せてハーモニカを吹いている少年のさびしさが想像される。くぐもった音色が感じやすい少年の心持ちをなぐさめてくれる。そんな感傷的なシーンには薄暮がしっくり調和する。「ハーモニカ」が引き金になって読み手の心にも二度と戻らない時への郷愁をかきたてるのだろうか、長い間手にしていないハーモニカのひやりとした感触を思い出して懐かしくなった。『花文字館』(2008)所収。(三宅やよい)
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