April 242010
春雨てふ銀の鎖をくぐりけり
矢野玲奈
これを書いている今も細かい春雨が降っているけれど、また冬に逆戻りの冷たさ。少し濡れてもいいかな、という艶な雨ではない。それにしても今日みたいな雨ばかりだったなあ、この春は、と思いながらも、この句を読むと、春の雨の風情を思い出す。うっすら白い空の色がそのまま零れて、仄かな銀の光をまとった雨粒になる。雨の糸、と言うと、細かさが見えるが、銀の鎖、という表現は輝きと共に、その一粒一粒にある生命力、草木や大地そのものを育む力を感じさせる。傘をささずに手をかざすくらいで、小走りにちょっとその先まで雨をくぐって行く作者も、春雨に通じるたおやかさと明るさと、内なる力強さを合わせ持っているのかもしれない。そして、桜蘂の上にうっすら雪がのる、という不思議な今年の春が行く。「新撰21」(2009・邑書林)所載。(今井肖子)
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