大野新追悼文の準備。ここ十年ほど追悼文を書くこと多し。そんな年齢。(哲




20100411句(前日までの二句を含む)

April 1142010

 人も見ぬ春や鏡の裏の梅

                           松尾芭蕉

の表面をミズスマシのように歩いたり、あるいは鏡の中の世界へ深くもぐりこんでいったり、というのは、アリスの国の作者だけではなく、だれしもがしたくなる想像の世界です。この句で芭蕉は、鏡の外でも中でもなく、鏡の裏側の絵模様に視線を当てています。鏡に映っている下界の季節とは別に、鏡の裏側にも季節がきちんと描かれていて、見れば梅の咲き誇る春であったというのです。けれど、この春はだれに見られることもなく、また、時が進んでゆくわけでもなく、取り残されたように世界の裏側にひっそりと佇んでいます。鏡の外の庭には、すでに桜が咲き、さらにその盛りも過ぎようとしています。けれど鏡の裏側には、いつまでも梅の花が、だれに愛でられることもなく咲いています。句全体に、美しいけれどもどことなくさびしさを感じてしまうのは、鏡の裏という位置に、自分の人生を重ねあわせてしまうからなのです。『俳句大観』(1971・明治書院)所載。(松下育男)




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