やっと晴れマーク。でも気温は低そう。いつまで足踏みするのか、春。(哲




20100326句(前日までの二句を含む)

March 2632010

 鼻さきにたんぽぽ むかし 匍匐の兵

                           伊丹三樹彦

の野に寝転び鼻先にたんぽぽを見る安らぎの中にいて、記憶は突如フラッシュバック。いきなり匍匐前進中の兵隊である我に飛ぶ。銃弾飛び交う状況である。この句を見て思い出す映画がある。スピルバーグ監督、トム・ハンクス主演の映画「プライベート・ライアン」は何千基と林立する戦没者の墓の一つを探し当ててよろよろと駆け寄る老人のシーンから始まる。命の恩人の墓を見出した老人の感激の表情から、シーンは突然数十年前の激戦のシーンに飛ぶ。この句とその映画の冒頭は同じ構造を持つ。何かをきっかけにむかしを思い出すのはよくあること。懐メロなんかはそのためにすたれない。いい記憶ならいいが、悪い記憶に戻る「鍵」などないほうがいい。戦闘機乗りの話をどこかで読んだ。広い広い穏やかな海と青空のほんの一角で空戦や艦爆が行われている。攻撃機はその平安の中を飛んで、わざわざ殺し合いの状況下へ入っていくわけだ。静かな美しい自然の中の醜悪な小さな小さな空間の中へ。この句、たんぽぽがあるから救われる。「兵」が人間らしさを保つよすがとなっている。『伊丹三樹彦集』(1986)所収。(今井 聖)




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