March 192010
蘂だけの梅猛猛し風の中
高橋睦郎
原句は草冠の無い「しべ」。命あるものの盛りが過ぎて崩れていく途中のかたちの美しさを愛でるのは日本的美意識特有のものだろう。「猛々しさ」も命の肯定。滅びゆく肉体を意識しつつ想念はさらに燃え盛る人間という比喩にすんなりと入っていける。こんな句は自分の命の果てが実感できない年齢の頃は詠えない。「美しさ」は思いつくかも知れないが。「猛猛しさ」はそれを憧憬するような年齢になって初めて詠える言葉である。『遊行』(2006)所収。(今井 聖)
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