Ah, zut! 小村雪岱展(埼玉県立近代美術館)を見逃しちゃった。(哲




20100224句(前日までの二句を含む)

February 2422010

 大井川担がれて行く冬の棺

                           榎本バソン了壱

井川は静岡県中部から駿河湾に注ぐ、全長百六十八キロの川。その昔、架橋や渡船が禁じられていた川だから、人足が肩車や輦台(れんだい)で渡したことで知られる。担がれて渡るのは人ばかりではなく、棺だって担がれて渡ったであろう。冬の水を満々とたたえた、流れの速い大河を、棺がそろそろと慎重に担がれて行く。寒々とした冬である。命知らずの猛者たちが棺を担いで渡る様子が、大きなスケールと高いテンションを伴って見えて印象深い。掲出句は本年1月に刊行されたバソン了壱の第一句集『川を渡る』のなかの一句。東京から京都の大学へ通う新幹線が渡る百十一の川をネットで確認し、番外一句を加えて川を詠みこんだ百十二句の俳句を収めている。尋常ならざるアイディアと、尋常ならざる俳句の人である。しかも、全句を多様なスタイルの筆文字(左利き)で自ら書いたという、コンパクトでユニークな句集である。「小さな事件に悩み、喜んでいるささやかな自分を川という鏡に映して、反問している」、それが句集全般を支配している、と前書で本人は述懐している。掲出句よりもバソン了壱らしい句は、むしろ「秋刀魚焼く女の脂目黒川」とか「安藤川一二三アンドゥトロワ」などのほうにある、と言っていいかもしれない。ともかく、「冬の棺」が担がれ去って行くことで、いよいよ冬も去り春が近いことを暗示している。もう二月尽。『川を渡る』(2010)所収。(八木忠栄)




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