January 212010
着ぶくれて動物園へ泣きに行く
西澤みず季
一月も下旬となり寒さも極まるとダウンジャケットやコートに身を固め、毛糸帽を目深かにかぶった人の姿が増えてくる。電車の中も押し合いへしあい嵩を増した者同士、身動きもとれないありさまで運ばれてゆく。そんな格好をしていると一番不似合いなのが優雅に恋愛することかもしれない。寄り添うにしてもごそごそと腕も組めやしない!それに比べ悲しみと着ぶくれは似つかわしく通じるところがありそう。だけどこの句では泣きにゆくのが動物園というところが意表を突いている。人に見られたくないので動物園を選んだのならラマやカモシカ、といったあまり人が集まっていない動物の前にあるベンチを選べばゆっくりと泣けそうだ。着ぶくれて泣いている様子を不思議そうに眺めている柵の中の動物の表情を想像するとなんだかおかしい。期せずして誘い出す笑いがせつなく明るくて、私も泣くために着ぶくれて動物園へ行きたくなった。『ミステリーツアー』(2009)所収。(三宅やよい)
『旅』や『風』などのキーワードからも検索できます
|