今日、アメフト大学決勝戦甲子園ボウル。関大対法政。写真は東大明治。(哲




20091213句(前日までの二句を含む)

December 13122009

 かがみ磨ぎ寺町のぞくおちばかな

                           建部巣兆

つだったか、だいぶ昔のとあるいちにちに、タクシーに乗ってぼんやりと窓から外を見ていたことがあります。まだ30代の若い頃で、事情があって住む家をさがしていました。松戸駅からほど近い小路を、ゆっくりと曲がろうとする車の中で、一瞬天地が激しく傾いたような感覚を持ちました。車が角を曲がる瞬間に、確かに大地が斜めに競りあがり、商店が空中に高く浮きあがったのです。車内にしがみつくようにして瞬間的に目を閉じ、そのあとで落ち着いて目を凝らせば、曲がり角のちょうど曲がり目のところに、大きな鏡が置いてありました。鏡、という言葉を見ると、あのころの不安定な心持を思い出します。今日の句は、鏡磨ぎという職業の人が、落ち葉の積もる寺町へ入っていったという、ただそれだけのことを詠んでいます。昔は鏡も金属でできていましたから、刀や包丁のように、表面を磨ぐ職業があったのでしょう。「かがみ」と「寺」のイメージが支えあって、落ち着いた美しい句になっています。落ち葉が敷き詰められている地面を手で払えば、その下には、深く空を映した鏡が張られている。そんな印象を持たせてくれる句です。『日本名句集成』(1992・學燈社)所載。(松下育男)




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