December 032009
風になりたし鶴の絵本をひろげいる
酒井弘司
思い切り寒い日に氷のかけらをこぼしながら餌をついばむ鶴を見に行きたい。この句を読んでふと思った。鹿児島県出水、山口県八代には何度か足を運んで鶴を見に行った。山裾まで開けた田圃に飛来する鶴は灰色がかった鍋鶴で、群れになって飛ぶ姿はたくましい渡り鳥という印象だった。野生の丹頂鶴はまだ見たことがない。親の膝にのって絵本を読んでいるのだろうか、ひろげている絵本が鶴の翼を思わせる。「風になりたし」とつぶやいているのは誰なのだろう。鶴の絵本を食い入るように眺めている子供とも考えられるし、絵本の鶴と一体化した子を背後からささえる親ともとれる。ともに絵の中を飛ぶ鶴をはげます風になってお話の中に入り込んでいるのかもしれない。美しい舞鶴のイメージとともに鶴と風の関係に想像が膨らむ一句である。『谷風』(2009)所収。(三宅やよい)
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