September 20 2009
ふと火事に起きて物食ふ夜長哉
巌谷小波
季語は火事のほうではなく「夜長」で、秋です。なんだかはっきりとしなかった今年の夏も、はっきりとしないまま終わってしまったようで、気がつけば最近は日が暮れるのがずいぶんと早くなってきました。いちにちの内の、夜の占める割合が増えただけ、夜に起きる出来事が増えるのは理屈にあっており、でもいつの季節であっても、火事がおこるのは夜が多いものです。秋ともなれば、そうそうに布団に入ることもあり、深く眠ったその先で、耳から入る消防車の音を、わけもわからず聞いていたものと思われます。いつまでも続く音とともに目が覚めてみれば、そうか遠くで大きな火事があったのだなと、理由はわかったものの、いったん目が覚めてしまったらもう眠れそうもありません。ではと、夕食も早かったし、なにかつまむものはないかと思ったのでしょう。台所へ向かう静かな足音まで聞こえてきそうな、この場の心情にぴたりと嵌る句になっています。火事という、日常とはちょっと違った出来事に遭遇して、心は多少興奮を覚えているのかもしれません。空腹を覚えた、というよりも、心のざわめきを静めるために、少しの食物が必要だったのです。『日本名句集成』(1992・學燈社)所載。(松下育男)
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