June 16 2009
人間に呼吸水中花に錘
石母田星人
ある記念会のお土産のために、水中花をまとめ買いしたことがある。小さなグラスのなかで軽やかに広がる可愛らしい造花としか想像していなかった手に届いたそれらは、ずっしりと思いもよらぬ重量だった。水のなかで揺らめく優美な姿が、錘でつなぎとめられていることをすっかり忘れていたのだ。掲句では肝心なものとして呼吸と錘をそれぞれ並べているのだが、ふとある本に「人間は空気の層の底辺で這うようにして生きている」と書かれていたことを思い出した。地上は、見方を変えれば空気の底でもあるのだという事実に愕然としたものだが、掲句であっさりと呼吸と錘が並記されてことにより、人間も深く息を吐かなければ、実は浮き上がってしまう心もとない生きもののように思えてきた。折しも各地で空からおたまじゃくしが降ってきたという不思議なニュース。うっかり呼吸を忘れてしまったおたまじゃくしたちが、まるで音符を連ねるようにぷかりぷかりと雲に吸い込まれてしまったのかもしれない。白い画用紙を広げたような梅雨の空を見あげながら、大きく丁寧に息をしてみる。『膝蓋腱反射』(2009)所収。(土肥あき子)
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