花に背いて中村文則『何もかも憂鬱な夜に』の書評。刑務官と死刑囚の物語。




20090405句(前日までの二句を含む)

April 0542009

 小指より開け子が見する桜貝

                           中山フジ江

語は「桜貝」、春です。歳時記によると、「古くは花貝といわれた」とあります。その名を見ればおのずと、昔から人にやさしく見つめられつづけてきたのだということがわかります。身をかがめて拾われて、柔らかな手のひらに乗せられ、美しい美しいと愛でられてきたのでしょう。その思いそのままに、本日の句はひそやかで、小さくて、いとしい感情に包まれています。包んでいるのは子供の手。ぷっくりと、まだ赤ん坊のころの肉を付けたままのようです。「お母さん、いいものを見せてあげる」と、差し出された腕の先はしっかりと握られ、何が出てくるのかと被せる顔の前で、おもむろに小さな指から開かれてゆきます。小指が伸び、薬指が伸びた頃には、すでに貝の半身が色あざやかに目の前に現れ、見れば子供の爪のようにかわいらしい桜貝が出てきています。読む人をどこまでも優しい気持ちに導いてくれる、あたたかな春の句になっています。「俳句」(2009年4月号)所載。(松下育男)




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