February 262009
二人居るごとく楽器と春の人
中村草田男
楽器はどれもエロチックで美しいフォルムを持っている。掲句を読んであらためて考えてみると確かに演奏者が楽器と寄り添う姿は恋人を抱擁しているようだ。この「人」にかかる季節をいろいろ入れ替えてみたが、一番よく音楽が似合う季節はなんといっても春。暖かな春の休日に井の頭や石神井公園を散歩していると、バイオリンやフルートの音色が流れてきて心が明るくなる。夢中になって演奏している姿は実に楽しそうで、楽器と睦み、語らっているようだ。楽器は人が繰るものではなく、自分の感情を指や呼吸で伝えれば、音で答えてくれるもの。表現するのに技術を鍛えなければならないのはもちろんだけど、どんな語りかけにも良い音色で応えてくれるほど楽器は優しくない。そう思えば「二人居るごとく」と見るものに存在感を感じさせるのは恋人に対する心遣いで楽器と向き合ってこそかもしれない。『大虚鳥』(おほをそどり)(2003)所収。(三宅やよい)
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