February 15 2009
春の宵レジに文庫の伏せてあり
清水哲男
本日は清水さんの誕生日ということで、清水さんの句です。思い出せば昨年の今頃には、清水さんの古希をお祝いして後楽園でボウリング大会をしたのでした。幸いにもわたしは3位に入賞し、記念のメダルをいただきました。今もそのメダルは、大切に会社の引き出しにしまってあります。ところで、この句のポイントは、「春の宵」の一語と、そのあとに描かれている内容との、ちょっとした食い違いにあるのではないのでしょうか。というのも、「春の宵」といえば、思いつくのはロマンチックな思いであったり、センチメンタルな感情であったりするわけです。ところが、そんな当たり前な感じ方を、清水さんの感性は許すはずもなく、そこはそこ、読者を驚かすようなものを、きちんと差し出してくれるのです。その食い違いや驚かすものは、これ見よがしではなくて、あくまでも物静かで、自然な形でわたしたちに与えられるのです。それでいて、ああそうだな、そんなこともあるなという、合点(がてん)のゆく食い違いなのです。レジの上に、不安定な格好で伏せられた文庫本が、まざまざと目に見えるようです。その文庫本を手にする人の思いの揺れさえ、じかに感じられてくるから不思議です。なんとうまくこの世は、表現されてしまったものかと、思うわけです。『打つや太鼓』(2003)所収。(松下育男)
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