「ホトトギス」。分厚くて投稿句も多いが、全部読む読者はいるのだろうか。(哲




20090126句(前日までの二句を含む)

January 2612009

 寒柝のはじめの一打橋の上

                           本宮哲郎

語は「寒柝(かんたく)」で冬、「火の番」に分類。火事の多い冬季には火の用心のために夜回りをしたものだが、その際の拍子木が「寒柝」だ。いまの東京などではすっかり廃れてしまったこの風習だが、まだ健在のところもあるようだ。掲句、一読してすぐに、芝居の一場面の印象を受けた。いわゆる「チョーンと柝(き)が入る」シーンである。すこぶる格好がよろしい。だが、句に詠まれているのは現実だ。いっしょに回る人以外には、真っ暗闇のなか、観客どころか人っ子一人いやしない。だから、ことさらに意識して橋の上から拍子木を叩きはじめることもないのであるが、そこはそれ、これから表で大きな音を出し、周辺の人々の日常世界を破るのであるからして、何らかのけじめをつけておいたほうがよい。そして同時に、しばし非日常を演じる自身への景気づけの意味からも、橋という絵になりそうな場所からはじめたというわけだろう。こういう時、ただ何となく打ちはじめ、何となく終わるわけにはいかないのが人情というものだ。観客など一人もいなくても、夜回りをする人の気分は、ほとんど役者のようにたかぶってもいるのだと思う。それにしても二度と聞けないだろが、寒夜ふとんの中にいて聞こえてきた「ヒノヨージン……」の声と拍子木の音。懐しいなあ。回っていた人には申し訳ないけれど、私には冬の風物詩なのであった。「俳句界」(2009年2月号)所載。(清水哲男)




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