職を失ったことのない人が多数だろう。でも、現状に想像力は働かせてほしい。(哲




20090108句(前日までの二句を含む)

January 0812009

 蓋のない冬空底のないバケツ

                           渡辺白泉

月からしばらく東京では穏やかな晴天が続いた。雲ひとつなくはりつめた空はたたけばキーンと音がしそうだ。人も車も少ない正月は空気も澄んでいて山の稜線がくっきり間近に感じられた。冬空と言ってもどんよりとした雪雲で覆われがちな日本海側の空と太平洋岸の空では様相が違う。掲句の空は冷たく澄み切った青空だろうが、こんな逆説的な表現で冬空の青さを感じさせるのは白泉独特のもの。たたみかけるように続く「底のないバケツ」は「冬空」とのアナロジーを働かせてはいるが、単なる比喩ではない。蓋と底の対比を効かせ、「ない」「ない」のリフレインも調子がいいが「冬空」の後に深い切れがある。見上げた空から身近に転じられた視線の先に「底のないバケツ」が無造作に転がっている。虚から実へ、とめどなく広がる冬青空を見上げたあとのがらんと寂しい作者の心持ちが錆びて底の抜けたボロバケツになって足元に転がっている。『渡邊白泉全句集』(1984)所収。(三宅やよい)




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