December 022008
ひよめきや雪生のままのけものみち
恩田侑布子
原句は「生」に「き」のルビ。上五の「ひよめき」とは見慣れぬ言葉だが、「顋門」と表記し、広辞苑によると「幼児の頭蓋骨がまだ完全に縫合し終らない時、脈拍につれて動いて見える前頭および後頭の一部」とある。身体の一部とはいえ、「思」という漢字が使われていることや、大人になれば消滅してしまうものでもあり、幼児期だけに見られる、思考が開閉する場所のように思えるのだ。掲句では、雪野原のなかで踏み固められた一筋のけものみちに、ひよめきをそっと沿わせた。乱暴に続く雪の窪みが幼児の骨の形態を連想させるだけでなく、ただ食べるために雪原を往復するけものの呼吸が、熱く伝わるような、ひよめきである。〈刃凍ててやはらかき首集まり来〉〈ひらがなの地獄草紙を花の昼〉『空塵秘抄』(2008)所収。(土肥あき子)
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