読書週間。秋は意外に本が売れないという話も。今年もあと二ヶ月となりました。(哲




20081031句(前日までの二句を含む)

October 31102008

 黄菊白菊自前の呼吸すぐあへぐ

                           石田波郷

郷最後の句集の作品。結核による呼吸困難の重篤な状態の中で詠まれた。いわゆる境涯俳句や療養俳句と呼ばれた作品は自分の置かれた状態を凝視する点を意義としている。従来の「伝統俳句」は花鳥風月をテーマとして詠じ、それら「自然」の背後に微小なる存在として、あるいはそれらによって象徴されるべき受身の立場として、「我(われ)」が在った。いな、我はほとんど無かったと言った方がよい。この句、呼吸の苦しさは切実な我を反映しているが、そこに斡旋された季語においては、映像的、感覚的な計らいがなされている。黄菊白菊という音のリズムに乗った上句は、リズムとともに、黄と白のちらちらする点滅を思わせる。危機に瀕している己れの生に向かって波郷は黄と白の信号を点滅してみせる演出をする。波郷の凄さである。『酒中花以後』(1970)所収。(今井 聖)




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