October 302008
朝寒の膝に日当る電車かな
柴田宵曲
背中にあたる昼の日差しは汗ばむようだが、朝は厚めの上着がほしいぐらい冷え込むようになってきた。おそらくは通勤の膝に当たっている日差しをぼんやりと眺めているのだろう。昔の電車だから今のように暖房が完備されているわけはなく、木の床板や車窓の隙間から入ってくる風に身体をすくめながら膝にあたるかすかなぬくみに朝の寒さを実感している。そんな情景が想像される。作者の『古句を観る』(岩波文庫)はこのコーナーでもよく紹介される本だが、何度読んでも飽きない。元禄時代の無名俳人の句を取り上げているのだが、的をはずさない句の解釈もさることながら、簡潔で味わい深い文章の魅力に引きつけられる。広い教養に裏打ちされた作者の人柄が文章に反映しているのだろう。この本はしばらく絶版だったが、多くの読者の希望で復刊されたと聞く。宵曲は一時期ホトトギスに所属、丸ビルの事務所にも通っていたが、のちには寒川鼠骨を助けて『子規全集』を編集。その交遊のうちに俳句を続けたという。『虚子編季寄せ』(三省堂・1941)所載。(三宅やよい)
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