October 24 2008
月に脱ぐシャツの農薬くさきかな
本宮哲郎
土くさい、汗くさい、は労働のイメージの定番。花の匂い、草の匂いは花鳥諷詠の定番。五感のひとつ嗅覚は、他の四つの感覚と並んで、対象から「体」で直接受けとる感動の核である。「農薬くさき」はリアルの中心。ここに「私」も「真実」も存する。この句の隣の頁には「稲架乾く匂ひが通夜の席にまで」がある。この句も嗅覚。「乾く匂ひ」が眼目。稲の匂いや稲架の匂いは言えても「乾く」が言えない。ここが非凡と平凡の岐れ道。もっとも後の句の通夜の席という設定を見れば、従来の俳句的情緒との融和の中での「乾く」。前の句は「月」との融和。わび、寂びや花鳥風月の従来の俳句観も大切にしつつ「私」も同時に押し出す作者の豪腕を思わせる。『日本海』(2000)所収。(今井 聖)
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