September 282008
人下りしあとの座布団月の舟
今井つる女
座布団から下りただけなのですから、数センチの高さのことなのでしょう。しかし、読んだときに思い浮かべたのは、もっと大きな、ゆったりとした動きでした。それはたぶん、「舟」という乗り物が、最後にでてくるからなのです。「人」「月」「舟」、放っておいてもロマンチックな空想へいってしまう言葉たちを、「座布団」が中心にどしりと座り込んで、現実とつなげているようです。それでも依然として句は、人をどこか未知の世界へ運んでくれています。人が座っていたあとの、なだらかなへこみが、舟のかたちをしていると詠っているのでしょうか。あるいはへこみから視線を上空へ向ければ、夜空に舟の形をした月が浮かんでいるということなのでしょうか。かぐや姫を持ち出すまでもなく、あるいは魔法の絨毯に言及するまでもなく、句には、どこか異世界のにおいのする素敵な光がみちています。ここから自由にどこへでも、わたしたちは漕ぎ出してもいいのだと。『合本俳句歳時記 第三版』(2004・角川書店)所載。(松下育男)
『旅』や『風』などのキーワードからも検索できます
|