王が今季限りでやめる。早実時代からのファンだった。長い間、ありがとう。(哲




20080924句(前日までの二句を含む)

September 2492008

 谷戸谷戸に友どち住みて良夜かな

                           永井龍男

戸は「やど」とも呼ばれる。「谷(やと/やつ)」のことでもあり、龍男が住んでいた鎌倉に多い地名でもある。詩人・田村隆一はかつて稲村ヶ崎から入った谷戸の奥の小高い土地に住み、書斎の窓からは水平線がよく眺望できた。「良夜」は時期的に今やちょっと過ぎてしまったが、主として十五夜=九月十三日の月の良い夜をさす。鎌倉住いの龍男は名月を見上げながら、同じ鎌倉の谷戸に住んでいる友だちの誰彼を想っているのだろう。良夜であるゆえにことさら、親しい友だちは今どうしているか気になっている。同じように月を眺めているか、まだ片付かない仕事の最中か、のんびり悠然と酒盃をかたむけているか・・・・それからそれへと自在に想像を連ねているのだ。ここでは「鎌倉」という地名は隠されているけれども、「谷戸谷戸」によってその土地が奥床しくも、幸せな一夜のように感じられてくる。昭和十年、横光利一がリーダーになってつくった門下生たちの十日会で、「俳句は小説の修業に必要だ」と横光は俳句を奨励した。そのなかに中里恒子や永井龍男らがいた。横光の歿後も、龍男は文芸春秋句会や文壇俳句会にも参加して、味わいのある俳句を詠んだ。谷戸の多い鎌倉を詠んだ句に対し、橋の多い深川を詠んだ龍男の句に「橋多き深川に来て月の雨」がある。平井照敏編『新歳時記(秋)』(1989)所収。(八木忠栄)




『旅』や『風』などのキーワードからも検索できます