September 182008
満月の終着駅で貝を売る
武馬久仁裕
言葉だけ追ってゆくと現実のありふれた描写のように思えるのに、俳句全体は非現実的な雰囲気を醸し出している。季の言葉としての「月」はそのさやけさが中心だが、この句は満ちた月と終着という時間性に重きが置かれている。それが季を超えた幻想的なイメージをこの句に与えているのだろう。満月に照らされている駅は出発駅にして終着駅。ここから出立した電車はすべてこの場所へ帰ってくる。そう思えば月光に浮かび上がる終着駅は『銀河鉄道の夜』や『千と千尋の神隠し』にあるようにこの世と違う次元にある駅のようだ。それならば貝を売っている場所はつげ義春の漫画にあるような鄙びた海沿いのモノトーンの景色が似合いだ。無人駅の裏にある小さな露店に暗い裸電球をぶらさげ顔も定かでない人が貝を売っている。売られている貝は粒の小さい浅利、真っ黒なカラス貝?それともこの世から消えた幻の貝?満月の下に売られている貝を想像してみるのも一興だろう。『貘の来る道』(1999)所収。(三宅やよい)
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