September 122008
星がおちないおちないとおもう秋の宿
金子兜太
星がおちない、で一息入れて下につづく。山国秩父の夜空だ。鳥取の夜の浜辺で寝ころんで空を見上げているとゆっくり巡っている人工衛星が見えた。海外ではもっとすごいらしい。星がおちてきそう、というのは俗な比喩。秋の宿の「秋の」もむしろおおざっぱなな言い方。ナマの実感の旗を掲げ、俗とおおざっぱを破調の中でエネルギーに転じてぐいぐい押してくる。それが兜太の「俳諧」。加藤楸邨、一茶、山頭火らに共通するところだ。「季題というものは腐臭ぷんぷんたり」とかつて兜太は言った。それは季題にこびりついている古いロマンを本意本情と称して詠うことを揶揄した言葉。兜太の「秋」は洗いざらしの褌のような趣。講談社版『新日本大歳時記』(1999)所載。(今井 聖)
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