広島平和記念日。三鷹市では毎年広島長崎の日には黙祷の呼びかけがある。(哲




20080806句(前日までの二句を含む)

August 0682008

 蟇ひたすら月に迫りけり

                           宮澤賢治

るからにグロテスクで、人にはあまり好かれない蟇(ひきがへる)の動作は鈍重で、叫んでも小石を投げつけてもなかなか動かない。暗い藪のなかで出くわし、ハッとして思わず跳びすさった経験がある。その蟇が地べたにバタリとへばりついているのではなく、「月に迫りけり」と大きなパースペクティブでとらえたところが、いかにも賢治らしい。ピョンピョンと跳んで月に迫るわけではない。バタリ・・・バタリ・・・とゆっくり重々しく迫って行くのだろう。「ひたすら」といっても、ゆっくりとした前進であるにちがいない。蟇には日の暮れる頃から活動する習性があるという。鈍重な蟇と明るい月の取り合せが印象的である。もしかしてこの蟇は、銀河鉄道でロマンチックに運ばれて行くのだろうか。そんな滑稽な図を考えてみたくもなる。賢治に「春―水星少女歌劇団一行」という詩があり、「向ふの小さな泥洲では、ぼうぼうと立つ白い湯気のなかを、蟇がつるんで這つてゐます」という、蟇の登場で終わっている。賢治は少年期から青年期にかけて、さかんに短歌を作ったけれども、俳句には「たそがれてなまめく菊のけはひかな」という作品もある。彼の俳句については触れられることが殆どなく、年譜に「村上鬼城『鬼城句集』が出版され、・・・・愛好して後半作句の手引きとし揮毫の練習に用いた」(大正六年・二十一歳)と記されている程度である。蟇といえば、中村草田男の代表句の一つ「蟾蜍(ひきがへる)長子家去る由もなし」を思い出す。『文人俳句歳時記』(1969)所収。(八木忠栄)




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