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June 0862008

 足跡は一歩にひとつ作り雨

                           桑原三郎

り雨という、なんとも品のよい言葉に目がとまりました。歳時記の解説によりますと、「屋根などから水道水を雨のように庭に降らせて涼を作り出すこと」とあります。夏の盛りの日の照りつけている道を、暑さに耐えながら一歩一歩と歩いている人に、ふと、水しぶきが当たります。顔を上げてみれば、ある一軒の家の屋根からきらきらと冷たい水が降り注いでいる、そんな意味なのでしょうか。「足跡は一歩にひとつ」までは、なんでもない日常の中で、ひたむきに生きている人の姿を象徴しているようにも読めます。こつこつと生きてゆく日々には、特に何が起きるわけでもありません。そんな折、ちょっとした非日常の輝きに満ちた驚きが訪れることがある、それが「作り雨」によってあらわされているのではないのでしょうか。一歩にひとつという、当然のことをことさらに言うことで、日々の耐え忍ぶさまが巧みに表現されています。さらに、「作り雨」の「作る」が、「足跡」にもかかっているようにも見えますが、そこまで解釈を広げてしまうと、私にはもう手に負えません。ともあれ「作り雨」、美しい言葉です。『角川俳句大歳時記 夏』(2006・角川書店) 所載。(松下育男)




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