原油高で湯たんぽの売り上げが伸びているという。子供らは見たこともないかも。(哲




20071126句(前日までの二句を含む)

November 26112007

 ターザンに使われぬまま枯かずら

                           五味 靖

などの世代にとって戦後最初のヒーローといえば、間違いなく、映画の「ターザン」だったろう。私は学校の巡回映画で見た。アフリカの未開の地で類猿人に育てられた彼は、実は英国貴族の末裔という設定だ。彼は人間の言葉がしゃべれない。猛獣との闘いのときなどに「アーーアアァ」という雄叫びをあげるくらいで、あとは人間には意味不明の「言語」を発するのみである。ジャングルを移動するのに、ターザンはいたるところにぶら下がっている植物の蔓を利用して、木から木へと猛スピードで飛び移ってゆく。まことに格好がよろしい。全国の子供たちが、それを真似て遊んだものだった。ターザンのように高いところまでは飛べないけれど、それでも私たちは必死に蔓にしがみつき、「アーーアアァ」と叫びながらわずかな距離を飛んだだけで、すっかりターザン気分になれたのである。敗戦後の何もない時代、それ以上に何もなく裸で活躍するターザンに、私たちがあこがれたのは当然だったと思う。掲句の「ターザン」は、だからワイズミュラーの演じた映画のターザンではなく、その頃の男の子たちを指している。そしていま、往年のターザン「たち」はみな、とっくに還暦を過ぎてしまった。もはや蔓につかまり雄叫びをあげる者などはいなくなり、「かづら」などは誰にも見向きもされないままに枯れてゆくばかり。まさに「昔の光、いまいずこ」ではないか、そんな感慨が読み込まれている句である。「あいずみ文芸」(第二号・2007年10月発行)所載。(清水哲男)




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