November 08 2007
急行の速度に入れば枯れふかし
西垣 脩
今日より立冬。日中は上着を脱ぐほど日差しも強く、冬の寒さにはほど遠いけど、「立冬」と呟いてみればめりはりのきいたその音に身の引き締まる思いがする。都会の駅を出て、郊外へ向かう電車だろうか。まずこの句を電車に乗っている乗客の視点から考えてみると、ゆっくり走っているときにはまばらに見えていた枯れ草や薄が速度をあげることでひとかたまりに流れてゆき、枯れた景色の懐ふかく入ってゆく印象がある。「速度に入れば」の「入る」という言葉は、加速すると同時にその景色の中へ入ってゆく気持ちを表しているようだ。次に小高い場所から電車を見下ろす視点から考えてみると、金色に薄の穂のなびく河原か野原。それともすっかり木の葉を落とした山裾の冬木立へと速度ののった電車はたちまちのうちに走り去り、辺りはもとの静かな枯れ色の景に戻るのだ。都会の中を走る通勤電車では気づかないが、休日に郊外へ向かう電車に乗るとてっぺんの薄くなった木立に、収穫の終わった畑地に、季節が冬へ向かって動き出しているのがわかる。そんな変化のひとつひとつに心を移していると、子供のころ靴を脱いで座席によじのぼり、鼻を車窓に押しつけて景色を眺めていた楽しみがよみがえってくるように思える。『現代俳句全集 第六巻』(1959)所載。(三宅やよい)
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