July 102007
自転車のおばちゃん一列雲の峰児玉硝子自然を守るエコライフが信条の世のおばちゃんたちは自転車が大好きだ。前後に荷物を乗せ、左右のハンドルにも買い物袋を下げ、確固たるリズムでペダルを漕いで突進する。おばちゃんはいつも急いでいる。青信号が点滅すると、途端になんとしてでも今ここで渡らなくてはいけないような切羽詰まった何ごとかに迫られる。おばちゃんはたくましい二の腕を夏の日にさらし、しかし、日焼けにも気を使う女心も忘れてはいない。車の邪魔にならないように歩行者レーンを走りながら、てくてく歩く人々を甲高いベルで押しのける。礼儀を重んじるのか、気にしないのか、危険なのか、安全なのか。しぶしぶ停まった赤信号で、空に貼り付く白い雲を満足そうに見上げる。まるでおばちゃんの手によって空に干されたような立派な入道雲である。そこでふと思い至ってしまったのである。おばちゃんとは。私の愛おしい一部分であるおばちゃんとは。一列のおばちゃんたちはいっせいに、これから辻征夫の詩に登場する偉大な「ボートを漕ぐおばさん」に変身すべく急いでいるのだ。(ボートを漕ぐ不思議なおばさん→ 鈴木志郎康さんのHP)はやくあのこのうちへ行かなくちゃ 、と。『青葉同心』(2004)所収。(土肥あき子)
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