べつに座りたかぁないが、朝のシルバーシートで化粧に熱中している女は許せない。(哲




20070627句(前日までの二句を含む)

June 2762007

 夏帯にほのかな浮気心かな

                           吉屋信子

帯は「一重帯」とも「単帯(ひとえおび)」とも呼ばれる。涼しい絽や紗で織られており、一重の博多織をもさす。夏帯をきりっと締めて、これからどこへ出かけるのだろうか。もちろん、あやしい動機があって出かけるわけではない。ちょっとよそ行きに装えば、高い心の持ち主ならばこそ、ふと「ほのかな女ごころ」が芽ばえ、「浮気心」もちらりとよぎったりする、そんな瞬間があっても不思議ではない。この場合の「浮気心」にも「夏帯」にもスキがなく、高い心が感じられて軽々には近寄りがたい。「白露や死んでゆく日も帯締めて」(鷹女)――これぞ女性の偽らざる本性というものであろう。この執着というか宿命のようなものは、男性にはついに実感できない世界である。こういう句を男がとりあげて云々すること自体危険なことなのかもしれない、とさえ思われてくる。女性の微妙な気持ちを、女性の細やかな感性によって「ほのか」ととらえてみせた。「夏帯やわが娘きびしく育てつつ」(汀女)という句の時間的延長上に成立してくる句境とも言える。桂信子のよく知られる名句「ゆるやかに着てひとと逢ふ螢の夜」などにも「夏帯」という言葉こそ遣われていないが、きりっと締められている夏帯がありありと見えていて艶かしい。女流作家・吉屋信子は戦時中に俳句に親しみ、「鶴」「寒雷」などに投句し、「ホトトギス」にも加わった。『文人俳句歳時記』(1969)所収。(八木忠栄)




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