岩合徳光、飯田龍太、高松英郎。桜も間近き春なれど、人は逝くもの……。悼。(哲




20070301句(前日までの二句を含む)

March 0132007

 早春の空より青き貨物船

                           岡本亜蘇

先の明るい空よりもっと青い色の貨物船だ。普通に読めば、早春の貨物船を描写した句に思える。しかし、「〜より」を比較ではなく、経由を表す「〜から」の意味で読むと、光あふれる早春の空からまっさおな貨物船がふわふわ舞い降りる不思議な光景が出現する。波止場に横付けになった船の色を即物的に詠んだ句としてもすがすがしい春の季感が感じられるが、別の角度からの読みもまた面白い。貨物船は巨大な胴体に荷物を積んで運搬する船。瀟洒な客船に較べ図体も大きく動きも鈍い。そんな船が軽々と空を渡って岸壁に接岸するシーンを想像するだけで楽しい。生まれ育った神戸では校舎の屋上から、沖に停泊するタンカーが霞んで見えた。カメラを提げて波止場を走り回る少年達は、コンテナや泥臭い運搬船には眼もくれなかったが、紺の船体に赤のラインが入ったスマートなデザインの英国の貨物船は、純白の客船に劣らぬ人気を集めていた。今も神戸の埠頭に豪華客船は入港してくるけど、商船大学は廃止になり、街を闊歩する外国船員の姿も少なくなった。そうした現実を思うとき、青い貨物船と早春の空のみずみずしい取り合わせが、過ぎ去った海運の時代への郷愁をも引き寄せるように感じられる。『西の扉』(2005)所収。(三宅やよい)




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