20070128句(前日までの二句を含む)

January 2812007

 回りつづけて落とすものなし冬の地球

                           桑原三郎

と星が引き合う力を、孤独と孤独が引き合っていると言ったのは、谷川俊太郎です。地球が回っているのに、自身の表面から何もはがれてゆかないのは、たしかに引力というさびしさによるものなのかもしれません。生きるということは、大地に引っ張り続けられることです。この句の視線はあきらかに、大空を見上げるものではなく、地球を側面から、あるいは鳥の目で見下ろしています。このような乾いた視線を、ためらいもなく作品に提示できるのは、俳句だからの事のような気がします。どんな世界を描いていても、有無を言わさず言葉を切り落としてしまう俳句だからこそ、可能なのではないでしょうか。詠まれている空間の大きさにもかかわらず、わたしはこの句に、なぜかミニチュアの、部屋の中に作られた宇宙のような印象を持ちます。目の前に広がる空間に、地球が浮かび、ガラガラ音をたてながら回っています。目を近づければ、細かな町並みが通っており、しがみつくようにして小さな人々が歩いています。むろん部屋の外は冬。窓をあければ、地球全体に北風が吹き込みます。『生と死の歳時記』(1999・法研)所載。(松下育男)




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