20061126句(前日までの二句を含む)

November 26112006

 午後といふ不思議なときの白障子

                           鷹羽狩行

語は「障子」、冬です。けだるく、幻想的な雰囲気をもった句です。障子といえば、日本の家屋にはなくてはならない建具です。格子に組んだ木の枠に白紙を張ったものを、ついたてやふすまと区別して、「明り障子」と呼ぶこともあります。きれいな言葉です。わたしはマンション暮らしが長いので、障子とは無縁の生活を送っていますが、それでも子供の頃の障子のある生活を、よく思い出します。ただ、この句のように、まぼろしの世界にあるような美しい姿とは違って、たいていは破れて、穴だらけのみすぼらしいものでした。「明り障子」という名の通りに、光はその一部を外から取り込んできます。障子とはまさに、「区切る」ことと「受け入れる」ことを同時にこなすことのできる、すぐれた境目なのだと思います。生命が活動を始める朝日の鋭い光ではなく、ここでは午後の、柔らかな光が通過してゆきます。午後のいっとき、障子を背に、心も体も休めているのでしょうか。うつらうつらする背中越しに、外気の暖かさがゆっくりと伝わってきます。日が傾いてゆくその先には、この世界とは違った「不思議な」場所への通路がうがたれているようです。「午後」という時のおだやかさは、いつまでも、まんべんなくわたしたちに降りつのっています。『合本俳句歳時記 第三版』(2004・角川書店)所載。(松下育男)




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