20061119句(前日までの二句を含む)

November 19112006

 永遠の待合室や冬の雨

                           高野ムツオ

を待つ「待合室」かによって、この句の解釈は大きく変わります。すぐに思い浮かぶのは駅です。しかし、「永遠」という語の持つ重い響きから考えて、これはどうも駅の待合室ではないようです。もっと命に近い場所、あるいは、命を「永遠」のほうへ置くための場所、つまり斎場のことを言っているのではないかと思われます。この句はわたしに、過去のある日を思い出させます。どのような理由によってであれ、大切な人を突然失うことの意味を、わたしたちは俄かに理解することはできません。理解する暇もなく、次から次へ手続きは進み、気がつけば「待合室」という名の部屋に入らされ、めったに会うことのない親戚の中で、飲みたくもないお茶を飲んでいるのです。ひたすらに悲しみが押し寄せてくる一方で、よそ事のような感覚も、時折入り込んできます。切羽詰った悲しみと、冷えた無感情が、ない交ぜになって揺れ動いています。扉は開き、名が呼ばれ、事が終わったことが知らされ、靴を履き、向かうべき場所へ向かう途中で、明るすぎるほどの廊下へ案内されます。高い天井の下、呆然としてガラス張りの壁の向こうを見つめていました。その日も外にはしきりに、冷たい雨が降っていたと記憶しています。『生と死の歳時記』(法研・1999)所載。(松下育男)




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