20061112句(前日までの二句を含む)

November 12112006

 地の温み空のぬくみの落葉かな

                           吉田鴻司

の欄を担当することになってから三ヶ月が経ちました。同じ日本語でありながら、俳句がこれほど詩とは違った姿を見せてくれるものとは、思いませんでした。言わずに我慢することの深さを、さらに覗き込んでゆこうと思います。さて、いよいよ冬の句です。掲句、目に付いたのは「ぬくみ」という語でした。「ぬくみ」ということばは、「てのひら」や「ふところ」という、人の肌を介した温かさを感じさせます。ですから、この句を読んだときにまず思ったのは、森や林の中ではなく、人がしじゅう通り過ぎる小さな公園の風景でした。マンションの脇に作られた公園の片隅、すべり台へ向かって、幼児が歩いています。幼児の足元を包む「落ち葉」のあたたかさは、もとから地上にあったものではなく、空からゆらゆらと降ってきたものだというのです。きれいな想像力です。むろん、上から落ちてくるのは、鮮やかな色に染まった一枚一枚の葉です。ただ、この句を読んでいると、葉とともに、空自体が地上へ降り立ったような印象を持ちます。透明な空が砕けて、そのまま地上へかぶさってきたようです。人々が落ち葉とともに足元に触れているのは、空の断片ででもあるかのようです。句全体に、高い縦の動きと、深い空間を感じることができます。幼児のそばにはもちろん母親がいて、動きをやさしく見守っています。この日に与えられた「ぬくみ」の意味を、じっと考えながら。俳誌「俳句」(角川書店・2006年9月号)所載。(松下育男)




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