20061110句(前日までの二句を含む)

November 10112006

 冬ざれ自画像水族館の水鏡

                           鷹羽狩行

こかに映っている自分の顔を見出すことはよくある。電車やバスの窓に、川や池や沼の水面に。さらにそこに空や雲や雪や雨を重ねてドラマの一シーンを演出するのも、映像的な手法の一典型である。自画像というから、顔だけというよりもう少し広い範囲の自分の像であろう。水族館の水槽の大きなガラスに作者は自分の姿を見た。映っている自分の姿の中を縦横に泳ぐ魚たち。自分の姿に気づくのは自分を認識することの入口。作者はそこに「冬ざれ」の自分を見出しているのである。俳句に触発されて起こった二十世紀初頭のアメリカ詩の運動、イマジズムは、短い詩を多く作り、俳句の特性を取り込んで、「良い詩の三原則」というマニフェストを発表した。その中の二つが、「形容詞や副詞など修飾語を使用しないこと」「硬質なイメージをもちいること」。彼等が俳句から得た新鮮な特徴の原型がこの句にも実践されている。独自のリズムの文体の中に、かつんと響き合うように置かれた二つのイメージの衝突がある。『誕生』(1965)所収。(今井 聖)




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