東京のソメイヨシノ開花予想日。本当に咲くかな。と思ってたら昨日一挙に咲いちゃった。




20060322句(前日までの二句を含む)

March 2232006

 にこにこと人違ひさる春の宵

                           内田美紗

語は「春の宵」。見知らぬ人が、親しげに「にこにこと」話しかけてきた。私にも何度か経験があるが、相手が酔っていないかぎりは、こちらの名前を言えばすぐに「人違ひ」だとわかってもらえる。作者の場合もあっさり誤認が解け、その人はバツが悪そうに離れていったのだが、しかし人違いされて悪い気分ではない。「春の宵」のちょっぴり浮いた気分と「にこにこ」顔はごく自然な感じがするし、あまりに自然な間違い方がかえって印象的で、作者もまた思わずもにこにこと笑顔を返したのではなかろうか。春宵ゆえの人情の機微が、よく捉えられている。ところで人違いというのではないけれど、テレビ局の廊下などを歩いていると、本当はまったく知らない人につい会釈してしまうことがある。相手はアナウンサーやタレントなどで、こちらは映像でよく見ているので知っているつもりになって挨拶してしまうわけだが、これもまたバツが悪いことに変わりはない。しかし、なかにはこちらの勘違い会釈に、訝しげな顔もせず「いや、どうも」などと気軽に挨拶を返す人もいたりして、吃驚する。そういう人はおそらく、誰に対してもそうすることに決めているのだろう。私にも放送体験があるのでわかるのだが、毎日のように初対面の人に会うので、とても覚えきれるものではない。そこで一度でも会ったことのある人に失礼にならぬようにと、とりあえず誰かれの区別無く挨拶する人も出てくるというわけだ。商売商売で、思わぬ苦労もあるものである。『内田美紗句集』(2006・現代俳句文庫)所収。(清水哲男)




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