平均寿命が2030年までに100歳前後になる可能性が高いと米学者が予測。想定外だ。




20060314句(前日までの二句を含む)

March 1432006

 つちふるや埃及といふ当て字

                           能村研三

語は「つちふる」。春、モンゴルや中国北部で強風のために吹き上げられた多量の砂塵が、偏西風に乗って日本に飛来する現象。気象用語では「黄砂」と言う。空がどんよりと、黄色っぽくなる。「つちふる」を漢字で書けば「霾」と難しい字で、この文字自体からも何やらただならぬ雰囲気が感じられる。さて、掲句の「埃及」は「エジプト」の漢字表記であり、作者は「つちふる」からこの表記をすっと連想している。「埃及」と見るだけで、なんとなく埃っぽい土地を思ってしまうが、実際、エジプトはあまり雨も降らないので埃っぽいところのようだ。ただし「埃及」は昔の中国の表記をそのまま日本が取り入れた言葉だそうで、古い中国語では外国を表記するときに、意味内容よりも音韻的な合致を重視したはずだから、この語に接した当時の中国人には埃っぽいイメージは感じられなかったかもしれない。でも、もしかしてイメージ的にも音韻的にも合致していたのだとしたら、これはたいした造語力である。句に戻ると、私たちの連想はむろん自由にあちこちに飛んでいくわけだが、俳句の世界からすると、この句のように自然現象から言葉それ自体へと飛び、その連想をそのまま句として成立させた作品は案外少ないのではないかと思われる。多くの句は自然に回帰するか、自然を呼び込もうとしているからだ。べつに、どちらがどうと言いたいわけじゃないけれど、句の「埃及」が眺める程にくっきりと見えるのは,きっとそのせいだろうと思ったことだった。「俳壇」(2006年4月号)所載。(清水哲男)




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