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20060129句(前日までの二句を含む)

January 2912006

 凍つる日の書架上段に詩集あり

                           藤村真理

語は「凍つ(凍る)」で冬。自宅の「書架」ではあるまい。「凍(い)つる日」を実感しているのだから、外出時でのことだ。図書館でもなく、書店の書架だと思う。凍てつく表から暖かい書店に入り、ようやく人心地がついたところだろう。まずはいつものように関心のある本の多い書架を眺め、ついでというよりも、身体が暖まってきた心のゆとりから、普段はあまり注意して見ることのない「上段」を見渡したところ、そこに立派な「詩集」が置いてあった。著名詩人の全詩集のような書物だろうか。高価そうな本だし、手を伸ばしても届きそうもない上のほうの棚のことだし、中味を見ることはしないのだけれど、その凛とした存在感が表の寒さと呼応しあっているように感じられた。このときに「上段」とは「極北」に近い。著者が孤高の詩人であれば、なおさらである。ぶっちゃけた話をすれば、詩集が上段に置いてあるのは売れそうもないからなのだが、それを存在感の確かさと受け止め変えた作者の心根を、詩の一愛好者としては嬉しく思う。ただ常識から言うと、一般の人にとって、詩集は遠い存在だ。せっかく字が読めるのに、生涯一冊の詩集も読まずに過ごす人のほうが圧倒的に多いだろう。「上段」どころてはなく、いや「冗談」ではなく、多くの人々にとっての詩集は、「極北」よりもさらに遠くに感じられているのではあるまいか。「俳句研究」(2006年1月号)所載。(清水哲男)




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